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山萩のゆれる頃

2012/09/04 [Tue]20:18 編集
category: 自然
日差しの落ちかけた夕方近く、
長月の薄明かりに照らされた
サラサラと揺れる山萩のそよぎは、
いつか どこかで聞いた事のある
衣擦れの音に似ていた。


私が京都のお寺で見習いをしていた遠い昔、
拝観時間の終了1時間前の午後3時から
本堂と境内の清掃がいっせいに始まる

「おい、もたもたするでない。しつかり清めなされ。」

     dc081936.jpg

 
先輩に後れを取らないように手早く雑巾がけをしながら、
14歳の少年は、枯山水からよせる残炎を浴びた。

ヒグラシの鳴き声と白檀の供香が重なる中、
閉門を告げる喚鐘が鳴り響いた。

すっかり後片付けを終え、ようやく一日が終わろうとしている。
後は一番離れた墓地の通用門の戸締りだけだ。
今のようにセキュリティが当たり前の時代からすれば、
いかにも不用心だつたあの頃は、
性善説からなる安心や安全に疑う事すらあり得なかった。

その日、来客用の玄関に履物が置かれてあった。
こんな時間に一体どなたが、お出でになつたのだろう?
参禅のお客様にしては、ちょっと様子が違うし
ご住職や先輩僧侶もそんな素振りはまるで無かった

客間の横を通るときに、小鼓が聞こえてくる
そう言えばお嬢様の稽古が、今月から再開するのを思い出した。



 昨夜、習字のあと片づけの時に立ち話をしていた。

 「お謡いって、知ってはる?」
 「何それ・・・」
 「お能を舞う時の歌詞なんよ」
 「能?」
 「うちなア、井筒って言う、演目に挑戦してみるんえ」
 「おたべみたいなおやつか???」
 「食べられまへん!!! お菓子とちゃうし」
 「なんや、そんなんいらん」
 「ほな、おやすみなさい」

 同い年のお嬢様があきれながら、クスクスと笑っていた。
 きっと古臭くて難しい事なんだろうと、
 当時の私は無関心そのものだった。
 彼女の横顔以外は・・・。


奥の間へ続く縁側の障子は、すべて閉ざされていたが
そこへ落ちた影絵には、美しい姿が浮かんでいた。

畳を擦る着物と足袋の音が、晩夏の夕闇に重なり
私の痩せた背中に、恋の種を落とした


     gyoji-chashitsu.jpg



謡楽や和事に触れ合うことは滅多に無いけれど
9月の夕暮れに山萩を見つけると
長い歳月の向こう側に、あの日の記憶の蔵が現れる。
そして小さな隙間から柔らかい光を伸ばしている。
私は、今日もこうして生きている
ありがたいと思う。





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